【対談】鈴木敏夫×権藤博 監督論から宮崎駿引退の真相まで
鈴「そうです。頭の中で思い描いたものを描こうとしてもできないんですよ。何回やってみても描けない。それが原因なんです。野球で言えば、もう投げられなくなったピッチャーみたいなもんですよね。『風立ちぬ』を作ってる間に本人が一番言ってた愚痴は、『若い時のオレが欲しい』ですから。あの引退記者会見の時に面白かったのが、『つらかったことは』って聞かれて、『監督は一回も楽しいと思ったことはなかった。でも、芝居を描く時は、たまにいいものが描けると本当にうれしかった』って。これ本心なんですよ」
権「あのくらいの人は分かるんですよ。プレーヤーと監督だったらプレーヤーの方が偉いって」
鈴「アニメーションって肉体労働なんです。1本の映画で17万枚くらいの絵を描くんですよ。監督はその17万枚をチェックしないといけない。1本の映画が2年でできるとして、1日に何百枚かの絵を描き、見なくてはいけない。それがつらくなったんです。ホント、肩ボロボロなんです。やり方変えればできるじゃないですかって言ってもね、できることはできるけど、本人が納得できない。うまいやつを連れてきてやってもらったこともあったけど、気に入らない。あそこまでやってきてもなお、絵描きとして尊敬を集めたいんです、監督としてではなく」