<第10回>宇崎竜童が語る「高倉健からもらったもの」
宇崎は高倉と共演することがわかっていたから、芝居の準備として、2カ月間、居合の道場に通った。刀の抜き方、納め方、武士の所作を学んでから撮影に臨んだのである。
「鯉口を切るなんて動作はフィルムには絶対に映りません。それでも高倉さんはちゃんと見ていて、そのことを指摘してくれました。しかも、その意味は僕をほめるというだけではないんです。……あなたが努力していることは必ず誰かが見ている。だから、手を抜かないでみんなでいい映画をつくろうってことを暗示されていたんです。ですから、ほめられたのは僕だけじゃありません。高倉さんは他の役者にもスタッフにも、その人が人知れず努力しているところをちゃんと見ていて、なおかつほめる。すると、作品にかかわる全員の士気が高まる」
主演の演技とはまさにこうしたものだ。この映画ににじみ出ている緊張感は出演者、スタッフの息が合っていたからこそ出てきたものなのである。
宇崎は「多くのことを教わった」と語る。
「高倉さんにいただいたものは返せません。返したいけれど返せないほど大きなものをいただいている。できるとすればたったひとつ。私が後輩や新人に高倉さんからもらったものと同じものを渡すこと。その人のいいところを見つけて大局的にほめてあげること」