吉田鋼太郎がバツ3役 “大人の恋愛ドラマ”は女優も魅せる
【連載コラム「TV見るべきものは!!」】
「東京センチメンタル」の主人公・久留里卓三は、55歳になる和菓子屋店主だ。職人としての腕はいいが、かなりの女好き、というかホレっぽい性格。離婚歴ありで、しかもバツ3。これを“平成一のモテ中年”である吉田鋼太郎(57)が演じているところが絶妙だ。
基本的には、毎回いろんなタイプの美女にホレて、結局はフラれる。だから、つい「男はつらいよ」の寅さんを思い浮かべる人もいるだろうが、ちょっと違う。寅さんが無意識のうちに恋をしてしまう“恋愛の天才”だとすれば、卓三は自意識過剰な“恋愛の凡人”。いや、だからこそ世の男たちも共感できるのだ。
これまでの中で、最高傑作は「新井薬師の恋」である。昔、修業をしていた老舗の和菓子屋から閉店の知らせが届く。現在の店主は先代の娘で、かつて隠れて交際していたこともある、みずほ(床嶋佳子)だ。卓三は、彼女から父親の味を再現して欲しいと頼まれる。
卓三への思いを持ちながら、直接伝えることのできないみずほ。それを感じながらも、応えることができない卓三。互いに大人だからこそ、一度失った恋を取り戻すのは難しいんだよなあ。
和服姿の床嶋佳子(51)が、せつなくも美しかった。また別の回では、イタリアから一時帰国したバイオリニスト役の奥貫薫(45)もよかった。旬の女優ばかりが女優ではない。
(上智大学教授・碓井広義=メディア論)