宇多田ヒカル新アルバム 人間活動後の“変化”専門家に聞く
「以前はジャパニーズR&Bの歌姫としての気負いが感じられ、息継ぎひとつとっても、分かりやすくいえば、聞いていて苦しそうだった。それがいい意味で普通の歌い方になった。ただ日常生活、もっといえば、地に足の着いた生活を行うことによって人間性を取り戻して歌うと、飾り気というものがそぎ落とされるのだなあと。聞く人によっては物足りなさや地味さを感じるかもしれませんが、本人たっての希望で専念した人間活動の成果という意味では十分に表れているのではないでしょうか」
休業中にイタリア人の夫との間に第1子となる長男を授かったのも大きいだろう。もっとも、16歳でリリースしたファーストアルバム「First Love」(99年)はいきなり870万枚をセールスし、国内の歴代アルバム1位という金字塔を打ち立てた。その記録を塗り替えるのは容易ではない。「本当の勝負は復帰2枚目以降になる」と前出の富澤氏が言う。
「というのも、荒井由実が結婚から1年5カ月のブランクを経て、松任谷由実の名で初めて出したオリジナルアルバム『紅雀』は、それまでの彼女のサウンドに比べ、非常に落ち着いた一枚で“面白くない”といった声が上がりました。当時、私自身も批判したひとりです。しかし、2枚目以降はその後の活躍からも分かるように見事に独自の世界観を確立し、世間から求められた。新生・宇多田ヒカルもこれからだと思います」
母の死、結婚、出産を経験し、ふたたび歌の世界に戻ってきた宇多田。新たな世界をファンに提示できるかお楽しみはこれからのようだ。