37年間封印 岸田敏志が語る「菊姫」大吟醸にまつわる秘話
それを聞いて、うれしかったのはもちろんですが、老舗酒蔵を守る商人としての矜持の高さ、酒造りへのこだわりを感じたものです。その頃のセゾングループは流通業のトップを走る優良企業で、文化事業でも有名でした。堤さんご自身がカリスマ実業家として注目されていた方でした。その依頼を断るなんてことは、恐らく前代未聞ではなかったでしょうか。
実は堤さんとはその前に楽曲作りでご縁がありました。「きみの朝」のカップリング曲「約束の日」は79年4月にTBS系で放映したドラマ「あめゆきさん」の主題歌。この作詞をされた藤村渉は作詞家・堤清二のペンネームです。堤さんはご存じの通り、辻井喬のペンネームで優れたエッセーや小説を多数手がけられていますが、このドラマのスポンサーがセゾングループで、ドラマの冠タイトルは確か「西武スペシャル」。
曲作りの前にお忙しい中、スケジュールを取って直接お会いして打ち合わせをしていました。
蔵元さんで堤さんの話が出た時はすぐにそのことが脳裏をよぎり、堤さんの柔和な笑顔が浮かんで申し訳ない気もしました。それだけに、取材後もおおっぴらに話せなくてずっと封印してきたんです。堤さんが亡くなられて早いもので丸4年。まさに今だからこそ話せるエピソードですね。