多芸多才の佐野史郎さんは「死ぬ直前まで仕事がしたい」
死ぬ直前までいつものように仕事ができることが一番の幸せだと思います。去年、急逝した大杉漣さんとは同じような出自で、同じような仕事の仕方をしてきて共演も多く、お互い音楽が好きなので共通することも多かった。彼や亡くなられた先輩たちの姿を見ると美しいな、プロフェッショナルだなと思います。僕もそうありたい。
生や死については10代の頃から割と考えている方かな。ここ10年ぐらいはとくに考えるようになりました。最近はネット配信などで若い頃に出た映画やドラマを見ることが増えましたが、作品の中の“若い僕”を見ると死んじゃった人のように感じる。自分だってわかるし、自分がやってきたことだけど、今の自分の体ではありませんからね。親や祖先のような感じがするといいますか。
故郷・島根にゆかりの小泉八雲の作品の朗読を10年以上前から続けていますが、この朗読では彼の生きた120年前の風景を、2019年の僕の体が120年前の音として出すわけです。ある時、目の前の観客が120年後の未来の人のように見えた瞬間があった。まるで幽霊のように。さまざまなものを演じながらそういう生と死、過去と未来、フィクションと現実を行き来するような感覚を繰り返す日々なので、自分は今どこにいるんだろう、でも、どこでもいい、どのようであってもいいと思い、そんな考えに救われました。だからこそ日々の瞬間瞬間が大事に思えました。