ケーキ屋ケンちゃんが居酒屋けんちゃんに?
■宮脇康之くんは酒に弱かったのだ
それから長い時間が過ぎ、よもや大人になってケンちゃんと、こーして一緒に仕事ができるなんて……小学生の頃は恨みもしたけど、やっぱりあの日本中の憧れのケンちゃんが目の前にいるというのは、かなりの感激であった。
「ダンカンさん、僕の芝居、大丈夫ですかね?」と神妙に尋ねてくるケンちゃん、いや宮脇くん、「えっ? 何言ってんの!? 宮脇くんの方が俺なんかよりずーっと芸歴が長いんだから、大丈夫に決まってるじゃん、さ、飲も! 飲も!」と言いながら、俺は心の中で「ジ~ン(感動)芸能界の大先輩なのに、この真摯な振る舞い! あの小学生のケンちゃんはそのまま健やかに育ち、立派な大人になっていたのだなあ……ウウウ、何かもう同じ世代として、俺は誇っちゃう胸張っちゃうもんねぇ」と涙がこぼれそうだったものでした……。
ところが、その健やかに大人に成長したケンちゃんが豹変するのにさほどの時間はかからなかったのだった……。
なごやかに20分も杯を交わしていたら突然ケンちゃんの目が据わり、「おう、ところでダンカンよォ」「はっ、ダンカン!?」「あ~、タケちゃんはどーいう人なんだよ?」「タケちゃん?」「ビートたけし」「うん、大好きでたまらない人だけど」「タケちゃんと話してーなあ!! 電話しろよ今、ホラ」「いや、それは迷惑だし……」「オレがしろって言ってんだよー!!」と、もうそこにはあのケーキ屋ケンちゃんの頃の純粋さはみじんもなく、支離滅裂で酒にのまれる「居酒屋ケンちゃん」がいたのだった。
その後、何度も飲んだが、子役の頃からプレッシャーや家庭の問題があったそうで……子役って大変なんだな……俺、普通のおバカな小学生でよかったなあ。うん……また、ケンちゃんと飲みたくなった。
(つづく)