NHK昔話法廷の新作は「桃太郎」天海×佐藤の丁々発止に注目
■芥川龍之介考察の「桃太郎」は…
検察官だけでなく、弁護人も桃太郎の実刑判決はやむを得ないと見ているところが興味を引くが、ここで思い出すのが、芥川龍之介が1924年(大正13年)にサンデー毎日に発表した短編「桃太郎」だ。
芥川によれば、そもそも桃太郎が鬼退治を思い立ったのは、人並みにあくせく働くのが嫌だったからで、老人夫婦も乱暴者を厄介払いできるならと出陣の仕度を整え、きび団子を持たせて送り出した。
そして、心優しい鬼たちが暮らす南国の楽園、鬼ヶ島に上陸した桃太郎とその手下は、逃げ惑う鬼たちに襲いかかり、ネットで言及するにははばかられるほどの極悪非道の限りを尽くした。そして「日本一の桃太郎は犬猿雉の三匹と、人質に取った鬼の子供に宝物の車を引かせながら、得々と故郷へ凱旋した」。
しかし、桃太郎はその後、復讐のために執拗に命を狙ってくる鬼に苦しめられ、「どうも鬼というものの執念の深いのには困ったものだ」と嘆くことになる。
米国の歴史学者ロバート・ティアニー(日本近代史)の言葉を借りれば、芥川は桃太郎を、南方進出を図る軍部の「帝国主義の唾棄すべき象徴」として描いた。それ以前にも、慶応義塾大学の創始者で、1万円札の図柄にもなった福沢諭吉は、2人の息子のために書いた教訓書「ひびのおしへ」で「桃太郎は盗人とも言うべき悪者なり」と記している。同じ人物の同じ行いでも、見方や立場によって、その評価は180度違うという好例だ。