五木ひろしの光と影<12>山口洋子からの突然の電話「三谷謙君の曲を一緒に作らない?」
この平尾昌晃の述懐からもわかるように、厳しい寸評は多分にテレビを意識してのことで、本番に限ったものだったのかもしれない。拙著「沢村忠に真空を飛ばせた男」を上梓するにあたって、筆者は山口洋子が後年に書き残した膨大なエッセーに可能な限り目を通した。それらを読む限り、この即席交歓会において三谷謙と言葉を交わすことに特別な感情を抱いていたのは審査員である山口洋子の方だったのではと思うようになった。それだけ彼の歌唱力とキャラクターに衝撃を受けていたのは言うまでもないが、運命的なものを感じた節もある。三谷と他の審査員の会話が終わったのを見計らって、山口洋子は三谷謙に努めて冷静に話しかけた。