五木ひろしの光と影<17>他の審査員の目に留まっては横取りされてしまう
それだけ山口洋子は三谷謙に惚れぬいてしまったということだ。それに「全日本歌謡選手権」は審査員が出場者のデビューに手を貸す前例がいくつもあったのも、このときの彼女の行動と無関係ではないだろう。例えば、審査員の一人、竹中労(ルポライター)は、吉田芳美という15歳の少女の才能に惚れ込み、早い段階から何くれとなく助言をし、少女が10週勝ち抜くとデビュー曲の作詞のみならず芸名の名付け親にもなった。その少女こそ現在の天童よしみである。
竹中労に限らず船村徹も浜口庫之助も、素質のある出場者に再デビューのアシストをしていた。それを目の当たりにしてきた山口洋子が「次は私も」と願うのは当然のことだった。加えてその行動は迅速にならざるをえない。他の審査員の目に留まっては横からさらわれてしまいかねない。そうなれば元も子もないではないか。
また「姫」の顧客である渡辺晋や堀威夫に紹介しなかったのも、自身がプロデュースするオプションを失いたくなかったからという見方は間違ってはいまい。いくら「プロデュースはママに任せるよ」と言われても、口約束ほど当てにならないことは、クラブママの自分は骨身に染みて知っている。「まあまあ、高い酒を下ろすからそれで勘弁して」と丸め込まれないとも限らない。