<146>早貴被告が運転するベンツは時速150kmの猛スピードで大阪方面に向かった
アプリコでの会合は夕方遅くに終わった。早貴被告が運転するベンツは、野崎幸助さんの自宅脇の駐車場を出てバイパスで北に向かい、途中の南紀田辺ICから高速道路に入って大阪方面にハンドルを向けた。途中で誰かと接触するだろう、と私は推測していたのでハンドルを握る手に力がこもった。
ただ気になったのは警察の姿がないことだった。行動確認(行確)するチャンスなのに全くその様子をうかがうことはできない。推理小説などでは警察の行確は秘密裏に行われるものとして描かれる場合が多いが、現実はそんなに甘いものではなく、周囲を見ていれば、おかしな動きをする者や不審な車は必ず分かるものだ。
例えば捜査員が通行人や作業員を装っても、レシーバーにつながったイヤホンを隠すのは至難の業である。フロントウインドーに2つのバックミラーが付いていたら覆面パトカーとみて間違いない。彼女のベンツに発信機を付ければ追跡できるだろうが、これは違法であり、警察がそんな危ない橋を渡るとは思えなかった。警察はもう十分証拠を握っていると考えていたのか、それとも彼女が田辺に来ていることも知らなかったのかは全く分からないが、私には不思議だった。