米アカデミー賞7冠「エブエブ」の衝撃! ハリウッドにおける「アジア系映画時代」の到来

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 過剰な自由が人格的自律をむしろ損なうという逆説は、自由意思など存在せず、すべては決定されているという古典的哲学命題も想起させる。ブラックホール(虚無の天体)にマルチバースを引きずり込もうとするジョブ・トゥパキは実は主人公の娘であり(ステファニー・スーが2役を熱演)、その彼女を救えるのは母親ミシェル・ヨーだけというのがこの映画の肝だ。

 あらゆる潜在的可能性が凝縮されている存在がいま目の前にあることに気づいた母親が娘を抱きしめる時、「その事以外はどうでもいい」(Nothing matters)という光が差す。スマホ一つで完結されるような矮小な「仮想現実化」と「社会の分断」が進む現代だからこそ、いま目の前にいる人を愛し、他者に手を差し伸べよというシンプルな訴えが胸にじわじわと迫る。

 過去の名作映画が頻繁に引用されるこの映画、1回見ただけでは意味が分からない難解な箇所もある。オススメは最低でも2回、何回でも見ることだ。

▽北島純(きたじま・じゅん) 映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク王国大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

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