映画「キャロル・オブ・ザ・ベル」の監督に聞く 戦禍のウクライナで製作、公開を続ける理由
ウクライナ伝統の歌のメッセージ
戦禍のウクライナ、さらに紛争地域でも共感を集めている話題の映画「キャロル・オブ・ザ・ベル」。その要因に、タイトルにも使われている、ウクライナ伝統の歌のメッセージが大きいとオレシャ監督(38)は言う。
「この歌はもともと『シェドリック』と呼ばれ、歌うと願いがかなうと伝えられてきました。ウクライナでは、どの世代も今回のような侵攻、占領といったまがまがしい出来事に遭っています。そんな経験の上で生き延びてきた。今回の侵攻もそう。本作でも少女たちが口ずさみ、生きる力としています。どんなに隔絶されたとしても守ってくれる。歌い、そう信じるんです」
──そのメッセージとは。
「ごく普通の、当たり前のような生活にこそ、理想がある。農家の家の庭に春が来て、花が咲き乱れ、鳥がさえずっている。そこで暮らす家族こそ豊かで、富がある。自分の土地、家を持ち、そこで働き、家族と生活していくことです。そんな理想は私たちのすぐそばにある。だから諦めないでいい。もっとも、ロシア人には理想でもなければ、幸せとも違うようですが。こうした歌まで、ロシアは盗用し、歌詞などを変え、それが自分たちのものかのようにしているのですから」
──それも略奪と同等だと。
「そうですね。もともとウクライナ人は昔から歌が好きで、伝統的な祭りやお祝い事を大切にしてきました。そんなウクライナの言葉、文化、伝統を踏みにじる行為に他ならないと思います。もっとも、ロシアがどうしたところで、結果的に私たちの文化や伝統が存在していることの証しになると思うんです。どの国であれ文化と伝統こそ偉大な宝物ではないでしょうか」