鴻上尚史氏「日本のオリジナルミュージカルを世界に輸出したい。達成しないと成仏できない」
鴻上尚史(劇作家・演出家/64歳)
数々の舞台を手掛けてきた鴻上尚史さんの死ぬまでにやりたいことは海外で作品をヒットさせること。しかも、日本のミュージカルを海外へ輸出したいという。
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「死ぬまでにやりたいこと」と問われたら、「海外で作品を当てたい」と言いたいです。僕は過去にロンドンで2度、イギリス人を相手に芝居を上演し、褒められはしましたが、どちらも1カ月ほどの上演期間でした。そうではなくて、ロングラン上演になることが僕の中での「当てた!」というイメージなのです。これってかなり難しいですよ。
蜷川(幸雄)さんがイギリスで上演してウケた時でも「甲子園で1回戦だけ勝って帰らなければいけないチームのようなものだ」と言ってましたからね。
■ロングラン上演になることが「当てた!」のイメージ
つまり芝居の世界で決勝まで上がって優勝するというのは何カ月、できれば何年間かのロングランになり、ビジネスとして大成功したということ。それが「当てた」「ヒットした」ということですから。
例えば、アメリカはビジネスの規模が違いますから、ロングラン作品を作るために時間もお金もかける。芝居ができたらブロードウェーにかける前に地方で上演して、お客さんの反応を見て手直しをし、また上演してようやくブロードウェーでやる。
そんな芝居の中から競争に勝ってロングランになると、誰もが知ってる作品になりますよね。だから、海外で当てるって壮大な夢。
もう一つ、ヒットする日本のオリジナルミュージカルを作るという夢も持っているんです。だから、2つの夢を合わせると僕が作ったオリジナルミュージカルを持って海を越えて上演してヒットさせたいと。これは大きい夢ですね。
今の日本では輸入ミュージカルが花盛りです。僕も今、8月から上演する「スクールオブロック」の演出をしています。もともとはアメリカの映画で舞台にもなっていて、それを日本人キャストでやるわけです。
それはそれで日本の演劇界にとって楽しいことだとは思います。でも、輸入ミュージカルばかりだとムズムズしちゃう自分もいる。アジアを見ても20年前は韓国が日本の演劇作品を買って上演していたのに、今は韓国ミュージカルを日本人が演じたりと逆転していますしね。韓国の演劇界に多大な文化予算が投入され、テコ入れできた結果でもあるんでしょう。
■メチャクチャにハードルが高い
僕が日本のオリジナルミュージカルを作り、世界に輸出したいと思います。これはメチャクチャにハードルが高いです。だからこそ死ぬまでに達成したいことです。達成しないと成仏できないかも(笑)。
具体的に言うと、蜷川さんは演出家ですが、僕は作家でもあるので、まず脚本だけで海を渡ってヒットを出す。やがて普通の演劇作品でヒットを出す。次にミュージカルの作・演出で当てるというふうに階段を上がるのがいいのかもしれません。でも、僕は日本の同時代を書くタイプの作家なので、欧米人にも普遍性がある脚本を書かないといけないですが。
そして次にミュージカル。具体的にはまず日本で日本人によるオリジナルミュージカルを作・演出し、それを外国の関係者にも見てもらい、「このミュージカルを買わないか」と売り込む。日本に招待するか、プレゼンのために海外で何日か上演するケースもあるかもしれません。
次にセリフや歌を英訳する。ここも大変。輸入ミュージカルが多い分、英語の歌詞をメロディーにのったままの語数で日本語に訳せる優秀な訳者はいっぱいいますが、逆に日本語の歌をうまく英訳できる人を探さないといけない。
だから、日本で作る最初の段階から世界に通じるミュージカルを作らなきゃいけない。これは難しい!