著者のコラム一覧
北島純映画評論家

映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

キンプリ永瀬廉主演「法廷遊戯」は司法制度の問題点を照射した秀逸な人間ドラマ

公開日: 更新日:

名作法廷劇の系譜に足跡

 裁判を巡る人間の愛憎を扱った映画は数知れないが、判決後に明らかになった真相の衝撃という点では何と言ってもビリー・ワイルダー監督「情婦」(1958年)が頂点だろう。原作はアガサ・クリスティ「検察側の証人」。ロンドンの殺人事件裁判で決定的な役割を果たす被告人の「妻」をマレーネ・ディートリヒが演じる。エンドロールで流れる「結末を人に教えてはいけない」という元祖ネタバレ禁止ルールは今なお受け継がれるお約束だ。

 シカゴ大司教殺害を巡る裁判劇を描いた「真実の行方」(グレゴリー・ホブリット監督、1996年)も見逃せない。同じ「どんでん返し」法廷映画でも、こちらはもうひとひねり加わった傑作。驚くことに被告人役エドワード・ノートンはこれがデビュー作で、弁護士役リチャード・ギアをかすませる超絶演技を見せつけ衝撃を与えた。フランシス・マクドーマンドやローラ・リニーといった芸達者が脇を固めており、こちらも必見だ。

 無辜が処罰されるのが冤罪だが、冤罪の裏には処罰されぬ罪人がいる。あるいは罪人が処罰されるとしても、罪と罰の均衡が貫かれるとは限らない。アレクサンドル・デュマの「モンテ・クリスト伯」やビクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」といった小説が繰り返し映画化されてきたのは、「人間の生」と「罪」と「罰」とが織り成す弁証法に綻びが生じる瞬間にこそ、刮目(かつもく)すべき人間劇が生まれるからだ。映画「法廷遊戯」はそうした人間劇の系譜に確かな足跡を残したようだ。

(映画評論家・北島純=社会構想大学院大学教授)

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  3. 3

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  4. 4

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  5. 5

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  1. 6

    清原果耶ついにスランプ脱出なるか? 坂口健太郎と“TBS火10”で再タッグ、「おかえりモネ」以来の共演に期待

  2. 7

    広末涼子が危険運転や看護師暴行に及んだ背景か…交通費5万円ケチった経済状況、鳥羽周作氏と破局説も

  3. 8

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  4. 9

    芸能界を去った中居正広氏と同じく白髪姿の小沢一敬…女性タレントが明かした近況

  5. 10

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  3. 3

    PL学園で僕が直面した壮絶すぎる「鉄の掟」…部屋では常に正座で笑顔も禁止、身も心も休まらず

  4. 4

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  5. 5

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  1. 6

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

  2. 7

    伸び悩む巨人若手の尻に火をつける“劇薬”の効能…秋広優人は「停滞」、浅野翔吾は「元気なし」

  3. 8

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  4. 9

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  5. 10

    下半身醜聞の川﨑春花に新展開! 突然の復帰発表に《メジャー予選会出場への打算》と痛烈パンチ