役所広司がたどり着いた“笠智衆の境地”…「PERFECT DAYS」は小津映画と共通する味わい
監督のヴィム・ヴェンダースは小津安二郎を敬愛
また監督を担当したのはヴィム・ヴェンダース。小津安二郎監督を敬愛している彼は、小津監督への思いを込めたドキュメンタリー「東京画」(1985年)を作ったこともあるが、小津の映画「東京物語」(53年)や「秋刀魚の味」(62年)で笠智衆が演じた役の名字が、やはり平山。そう考えると、笠智衆が小津映画の中で示した自然な存在感と、ここでの役所広司の平山には、共通した味わいがある。
ヴェンダース監督は役所の演じた平山に「穏やかさ、謙虚さ、大きな心」を感じたそうだが、これは笠智衆に対する俳優としてのイメージにそのまま重なる。時を超えて役所は、21世紀の小津映画に出てきそうな平山を、新たに創造したとも言える。
カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したのも、納得の名演。80~90年代、中堅どころの俳優に「将来、目指す俳優は?」と私がインタビューで聞くと、多くが「笠智衆さんのようになりたい」と答えた。
その後、笠智衆のようになった俳優はまだいないが、もはや彼を目指す必要はない。今目指す俳優がいるとしたら、それは役所広司である。その境地までたどり着いた彼の、見ていて心にしみ込むような温かい演技を、全身で感じてほしい。特に人生を重ねてきた大人たちには深い余韻が残る、必見の作品だ。
(金澤誠/映画ライター)