8月「納涼歌舞伎」 今年は勘九郎・七之助・巳之助の意気込みに感涙
彌十郎は一部、二部とも家主の役。『髪結新三』は、新三と家主のやりとりが山場だが、彌十郎は乗りに乗って演じ、勘九郎を追い詰め、盛り上げる。
第三部の『狐花』は、ミステリー作家の京極夏彦が歌舞伎のために書き下ろした新作で、京極は脚本を書くと、それを自ら小説にして、書き下ろした。
「幽霊が出た」という事件を描くが、幽霊は存在しないという世界観だ。怪談ではなく、理知的なミステリーで、幸四郎演じる探偵役の「憑き物落とし」中禪寺洲齋(京極の「百鬼夜行」シリーズの探偵役・中禅寺秋彦の曽祖父という設定)が解決していく。
歌舞伎の趣向を生かした作りにはなっているが、どこまでも理知的な世界観で貫かれている。
幸四郎はセリフが多いわりには影が薄く、悪役にまわった勘九郎の迫力と、謎めいた美男子の七之助の妖しさが印象に残る。美少年イメージから脱却したい様子の染五郎は中年男性の役で、若く見えてしまうものの、悪の側の人物をしっかり演じていた。
(作家・中川右介)