「裸はイヤ」と連ドラを降板した多岐川裕美
<1978年7月>
7月中旬、フジテレビの連続ドラマ「飢餓海峡」1回目の撮影が青森県五所川原市で行われていた。2日目の朝のことだった。開始時刻になっても娼婦・杉戸八重役の多岐川裕美(当時27)が現場に姿を見せない。犯人役の山崎努、刑事役の若山富三郎と並ぶ主役のひとり。
当日は遊郭のシーンを撮る予定だったが、肝心の女優がいないのではカメラを回すことはできない。監督の浦山桐郎は「どういうことだ!」と周囲に当たり散らした。
スタッフが慌ててホテルに駆けつけ、多岐川に会うと、ドラマから降りたいと言いだし、一歩も動こうとしない。次の日、浦山監督を交えて話し合いが持たれたが、「私にはできそうにない」の一点張り。はっきりとした理由は口にしなかったが、どうも裸になるのが困るということらしい。
「デビュー作の映画『聖獣学園』で裸にさせられたのがトラウマになっているというんです」(芸能記者)
「聖獣学園」で多岐川は上半身にイバラを巻きつけられ、乳房をあらわにした。後に女性誌の手記で多岐川は「だまされたんです。屈辱でした。悔しくて、恥ずかしくて。催眠術にかけられたみたいに裸にされた」と語っている。