<46>陽子が一番気に入っていた赤いコートを着て“ツーショット撮影”
これは陽子の1周忌のときに撮った写真だね。この赤いコートは、彼女が好きだったコートなんだよ。一番気に入ってて、よく着てたコート。それを着て撮ってるんだよね、バルコニーで。遺影を持って、セルフタイマーで撮影したんだよ。陽子とのツーショット。かなり、未練だね。
陽子の遺影は、京都と神戸に旅行に出かけたときの1枚。陽子とは、よく旅行に行ったんだ。京都でバルテュス展があるっていうんで、二人とも好きだからね、見に行こうぜー!って。泊まるのは神戸にしようってことになってさ、神戸に泊まったんだよ。黄昏どきにちょうどホテルに着くでしょう。ホテルでさ、とりあえずセックスするだろ…するんだよ、若いときっていうのはね。
それで、風呂入って、メイクして、ドレスアップしてさ、これからディナーに行くっていう前に撮った写真なんだよね。彼女の顔に、窓から優しい陽が落ちる。陽が落ちるっていうか、陽が落ちかかったホテルの窓の光、やわらかい光に包まれたところを撮るんだよ。
真っ赤なシャツ、風に揺れてるね
(「ふたりの『愛情旅行』から遺影を選ぶことにした。幸せだった夏、京都にバルテュス展を見に行った前の日泊まった神戸のポートピアホテルで撮った写真を選んだ。<いつも私はホテルの部屋に入るとすぐセックスしたくなる。ベッドにおしたおし下だけ脱がし強姦する。シャワーを2人で浴びる。ディナーに行くおしゃれしたヨーコを窓明かりで1枚撮る>その時の写真である。
これは妻の写真ではなく、愛人の写真である。ヨーコは旅行すると、妻でなく愛人になった。それも不埒な愛人に。そんなヨーコが、スキだった。このポートレートは、私の人生のベストワンの写真になるにちがいない。」<妻の遺影>より〔『太陽』1990年7月号〕)
陽子の遺影、葬式のときに、写真を見せるにはこの大きさがいいってことに気づいたんだ。抱きしめられる大きさがいいんだよね。
この写真の真っ赤なシャツはね、陽子からのプレゼントなんだよ。自分で洗濯してさ、バルコニーの物干し竿に干して。風に揺れてるね。
(構成=内田真由美)