著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<46>陽子が一番気に入っていた赤いコートを着て“ツーショット撮影”

公開日: 更新日:

 これは陽子の1周忌のときに撮った写真だね。この赤いコートは、彼女が好きだったコートなんだよ。一番気に入ってて、よく着てたコート。それを着て撮ってるんだよね、バルコニーで。遺影を持って、セルフタイマーで撮影したんだよ。陽子とのツーショット。かなり、未練だね。

 陽子の遺影は、京都と神戸に旅行に出かけたときの1枚。陽子とは、よく旅行に行ったんだ。京都でバルテュス展があるっていうんで、二人とも好きだからね、見に行こうぜー!って。泊まるのは神戸にしようってことになってさ、神戸に泊まったんだよ。黄昏どきにちょうどホテルに着くでしょう。ホテルでさ、とりあえずセックスするだろ…するんだよ、若いときっていうのはね。

 それで、風呂入って、メイクして、ドレスアップしてさ、これからディナーに行くっていう前に撮った写真なんだよね。彼女の顔に、窓から優しい陽が落ちる。陽が落ちるっていうか、陽が落ちかかったホテルの窓の光、やわらかい光に包まれたところを撮るんだよ。

真っ赤なシャツ、風に揺れてるね

(「ふたりの『愛情旅行』から遺影を選ぶことにした。幸せだった夏、京都にバルテュス展を見に行った前の日泊まった神戸のポートピアホテルで撮った写真を選んだ。<いつも私はホテルの部屋に入るとすぐセックスしたくなる。ベッドにおしたおし下だけ脱がし強姦する。シャワーを2人で浴びる。ディナーに行くおしゃれしたヨーコを窓明かりで1枚撮る>その時の写真である。

 これは妻の写真ではなく、愛人の写真である。ヨーコは旅行すると、妻でなく愛人になった。それも不埒な愛人に。そんなヨーコが、スキだった。このポートレートは、私の人生のベストワンの写真になるにちがいない。」<妻の遺影>より〔『太陽』1990年7月号〕)

 陽子の遺影、葬式のときに、写真を見せるにはこの大きさがいいってことに気づいたんだ。抱きしめられる大きさがいいんだよね。

 この写真の真っ赤なシャツはね、陽子からのプレゼントなんだよ。自分で洗濯してさ、バルコニーの物干し竿に干して。風に揺れてるね。

(構成=内田真由美)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    松本人志「事実無根」から一転、提訴取り下げの背景…黒塗りされた“大物タレント”を守るため?

  2. 2

    島田洋七が松本人志復帰説を一蹴…「視聴者は笑えない」「“天才”と周囲が持ち上げすぎ」と苦言

  3. 3

    人気作の続編「民王R」「トラベルナース」が明暗を分けたワケ…テレ朝の“続編戦略”は1勝1敗

  4. 4

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  5. 5

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  1. 6

    松本人志が文春訴訟取り下げで失った「大切なもの」…焦点は復帰時期や謝罪会見ではない

  2. 7

    窪田正孝の人気を食っちゃった? NHK「宙わたる教室」金髪の小林虎之介が《心に刺さる》ファン増殖中

  3. 8

    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

  4. 9

    菊川怜が選んだのはトロフィーワイフより母親…離婚で玉の輿7年半にピリオド、芸能界に返り咲き

  5. 10

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇