新型コロナ感染拡大 医師が危惧する気の緩みや解禁ムード

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 首都・東京で新型コロナウイルス感染者が急増していることを受け、政府や地方自治体の動きが慌ただしくなってきた。政府は特別措置法に基づき「政府対策本部」を設置。小池都知事は近隣4県の知事と電話会議を開いて、「不要不急の外出禁止」を求める共同メッセージを出すなど、感染拡大防止に躍起になっている。

 しかし、こうした動きに戸惑い、心の底で「大げさなのではないか」と思っている人もいるのではないか。

 安倍首相が20日に「休校要請を段階的に解除する」方針を示し、自粛してきた大規模イベントに関しても「主催者がリスクを判断し、慎重に対応する」よう要請するにとどめたことで、「感染拡大は山場を越えたのではないか」との楽観ムードが一旦広がったからだ。

 しかし海外では、イタリアやスペインでは新型肺炎の急増に制御がかからず、北欧やドイツ、スイスでも患者は急増している。欧米諸国は早めに中国からの直行便を止めているが、空港や国境の検疫が甘かったからではないか、といわれている。しかも、1月中にはかなり多くの中国人が訪欧している。東邦大学名誉教授の東丸貴信医師はいう。

「3月初めに友人であるパリ大学学長に状況を伺ったところ、フランスの病院は新型肺炎に対処する準備はできており、クラスターを見つけ隔離して感染拡大を抑えているとのことでした」

 ところがフランスではその後も、大臣の感染も含め患者が激増。医学生や退職医師を動員しているが、押し寄せる多数の患者に苦戦しているという。

「日本での新型コロナ検査数が少ないことはよく指摘されますが、欧米でも、初めはそれほど検査をしていなかったようです。強いインフルエンザくらいに侮っている間に世界中で感染者数は激増したのでしょう。日本では早めからクラスターを見つけて潰すというキメ細かい作業を継続して、水面下の感染集団を抑えこんできているようです。清潔で几帳面な国民性も相まって、まだ新型コロナ感染に耐えているといわれています。昨日の友人の話では、フランスは3週間後にピークを迎えるだろうとのことです。また、犠牲者が多数になるのは避けられないとの見方でした。イタリアやフランスのようにならないためには、気を緩めないことです」(東丸貴信医師)

■専門家会議メンバーが全国医療関係者へ「助けて」と

 日本の感染症の専門家も危機感を募らせている。政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」クラスター対策班で北海道大学の西浦博教授は「いまは空から焼夷弾が降ってきているような状態だ」と解禁ムードを危惧する声を上げているという。 医療従事者向けの総合医療情報サイト「m3.com」へ西浦教授が寄稿した「保健医療従事者向けのメッセージ」には「今は2月よりも厳しく、今からこそイベント自粛とハイリスク空間を避ける声を保健医療の皆さんから届けていただけるよう、助けてください」と書かれている。

 西浦教授は、大規模イベント自粛と専門家会議が求めた、「密封空間、密集場所、密接場面」がそろった場所での接触自粛が続いている間に日本国内の新規感染者数が減少したことを紹介。今回の新型コロナは行動変容を伴う努力をすれば「制御できる」としている。

 ところが小中学校休校解除の方針が伝わったことで市民の間で「解禁ムード」が高まったと危惧しているという。行動が普段通りに戻ると欧米で見られるような爆発的な感染者数の増大が懸念されるからだ。とくに、大規模イベントを流行地域で再開すると、制御不能になるという。

 西浦教授は、「非常識を承知でわかりやすいようにミサイルで例えると1月から2月上旬は短距離ミサイルが5~10発命中した程度ですが、この3月のパンデミックの状況というのは空から次々と焼夷弾が降ってきているような状態です。そこで『火事を一つ一つ止めないといけない』というようなのが今の状態です」とし、「現状では、市民の皆さまがそこまでの危機意識をもってこの流行に対峙したり、一人一人の行動を考えていないものと思います。過度の行動制限や都市封鎖などで見込まれる経済的ダメージが起こらないように、50人以上の大規模イベントへの参加をやめ、2次感染が何度か発生した3条件の重なる場所(例えばスポーツジム、ライブハウス、展示商談会、接待飲食など)およびその他の機会(懇親会など)の接触を控えることができないといけません」と医療関係者に呼び掛けている。

 西浦教授は感染症数理モデル第一人者。日本では数少ない、感染症の広がりを予測できる研究者である。その声を無視することはできない。

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