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内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(20)お客の話を聞いてあげるのも、ドライバーの仕事のうち

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 彼女いわく「定年退職してからは、どこへ出かけるでも、なにをするでもなく、一日中、家の中。しかも朝からテレビの前にでんと座ってちっとも動こうとしない。ずっと一緒のあたしゃ、朝昼晩とご飯を食べさせている」のだとか。開口一番“宿六”なのだから、聞いてほしいのは亭主への怒りということはすぐに察しがついたが、大酒のみとかギャンブル依存とか浮気といった修羅場の話ではない。家事をなんにもしない亭主への愚痴だった。

 だが、その“宿六”はサラリーマンを勤め上げて退職金ももらい、それなりに蓄えもあるうえ、月々の年金もちゃんともらっているらしい。ただ、なんにもせずに家にいることが彼女のストレスになっているようだ。家業の倒産で50歳にして妻と別れざるを得なかった私としては「いやいや、立派なご主人」と反論したい気もしたが、立場上、出過ぎた言葉は慎まなければならない。彼女にしてみれば、見ず知らずでなんの利害関係もないタクシードライバーの私に、ただ話を聞いてもらいたいだけなのだ。

 始終夫と一緒の妻の耐えがたい日々……。要は、世の熟年夫婦の間によくある「亭主元気で留守がいい」のワンシーンなのだ。「奥さんとしては大変ですよね」とか「男はどうしようもないですからね」などと、とりあえず差しさわりのない返答を私は心がけた。お客の話を聞いてあげるのもタクシードライバーの仕事。目的地が近づいてきたころ、私は我が身を照らし合わせながら、意を決して自分の正直な思いを打ち明けてみた。

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