(25)その女性客は“オバケ”ではなかったけれど…「津田梅子」新札登場でふと思い出した
しかし、彼女は違った。入行後、結婚したものの仕事を続け、出産後も銀行をやめることもなく定年まで勤め上げたのだという。仕事と家庭を両立させたばかりか、男性に負けじと猛勉強に励み、博士号、MBAも取得したというのだ。
「周囲の人たちは、男も女も結構冷ややかでしたけどね」と彼女は小さく笑ったが、私にもその大変さは理解できた。そして、「当時の面接官に、私、定年まで勤めましたよって言いたかったけど、その方はとっくに退職してました。ハハハ」と今度は豪快に笑った。
「運転手さん、すっかりいい気になって自慢話しちゃった、ごめんなさい。聞いていただいてありがとう」
目的地に着くと、彼女は照れくさそうにそう言いながらクルマを降りていった。私は「お疲れさまでした。これからもがんばってください」とエールを送った。乗車料金は5000円ほどで、彼女は「オバケ」ではなかったが、降ろした後、私は不思議な爽快感を覚えたものだ。いまでも忘れられないお客だ。
ちなみに今年、「津田梅子」が、新5000円札の顔に採用された。そのニュースを聞いて私はなぜかその女性のことを思い出していた。