下町の洗濯屋の3代目娘が染み抜き剤で一発当てた秘策とは…宣伝費ゼロで年商5000万円!

公開日: 更新日:

お客さんの苦情が開発の原動力に

「この染み落とせる? と聞かれれば、はい落ちますと何も考えずに答え、店に持ち帰っていました。しかし、父に“これは難しい”と言われ、お客さまに返品することに。結果、お客さまから叱責を受け、時には高額な弁償を強いられました」

 普通なら、染みは落ちないものと諦めるしかない。しかし浅川さんは、「だったら私が落としてやる! と。小さなクリーニング店が生き残る術でもあると思いました」。

 そこで浅川さんは、店に代々伝わる秘伝の染み抜き剤の改良に着手する。

「8年ほどかけて、ようやく納得できる方法にたどり着いたんです。ちなみに原料が8種類なので、後に販売会社の社名をハッシュとしました」

 実際の洗濯物で試してみると、面白いほど染みが取れた。客の評判も上々。「だったら売ってみよう」と考えた浅川さんだったが、課題は販路の確保だった。大手小売店へ営業するも「そういうのはたくさんあるから」と門前払い。「使ってくれれば良さが分かるのに……」と一時は途方に暮れた。そんな時、浮かんだのがECサイトの活用だった。

「楽天市場に出店したのが2011年です。最初は月に数千円程度の売り上げでしたが、広告戦略を活用することで徐々に認知度が上がっていきました」

 転機となったのは、楽天イーグルスの優勝セールだった。

「1日で3000個売れた日があったんです。月の売り上げは1000万円を突破。これは本当に儲かるぞと確信しました」

 しかし、浅川さんはここで安住することなく、次なる戦略を練った。それが「高利益率・適正価格」の追求だ。

「大手企業と同じ薄利多売の方法では、中小企業は太刀打ちできません。売り上げではなく利益に注目すべきだと思ったんです」

 浅川さんがたどり着いた戦略は、商品の価値を最大限に引き出す価格設定だった。

「うちの染み抜き剤は一般向けで一番大きいサイズ(200ミリリットル)で1万3200円。十分その価値があると自信はあります。でも最初から1万円以上を払う人はほとんどいません。そこで少量のお試し用や持ち運び用として数百円の入門商品を用意し、まずは使ってもらって、価値を実感してもらう。すると1万円以上でも安いと感じてもらえるんです」

 これで粗利益率は75%に達した。では、なぜ浅川さんはクリーニング店の3代目でありながら、こうした巧みな戦略を思いつくことができたのか。その秘密は、幼少期からの好奇心旺盛な性格にあった。 =後編につづく

(聞き手=いからしひろき)

▽浅川ふみ(あさかわ・ふみ) 1976年生まれ。68年に東京・大井町で創業した「日米クリーニング」の3代目。顧客の声を直接聞く中で、独自の染み抜き剤の開発に着手。2008年に「スポッとる」を発売し、累計70万本以上を売り上げる。現在は販売会社の代表取締役社長として、環境に配慮した洗剤の開発にも取り組む。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • トピックスのアクセスランキング

  1. 1

    大阪万博の目玉 344億円の巨大木造リングはほぼフィンランド産…「日本の森林再生のため」の嘘っぱち

  2. 2

    大阪万博「歯抜け開幕」ますます現実味…海外パビリオン完成たった6カ国、当日券導入“助け舟”の皮肉

  3. 3

    大阪万博パビリオン建設は“24時間体制”に…元請けの「3月中には完成させろ!」で危惧される突貫工事の過酷労働

  4. 4

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  5. 5

    大阪・関西万博もう間に合わず? 工事未完を「逆転の発想」で楽しむ方法…識者が皮肉たっぷり提唱

  1. 6

    金利上昇を資産運用に取り入れるなら…安定の定期預金、妙味は「銀行業ETF」

  2. 7

    大阪・関西万博の前売り券が売れないのも当然か?「個人情報規約」の放置が異常すぎる

  3. 8

    吉村府知事が語った大阪万博の「魅力」に失笑買い話題騒然!地方局TV情報番組で売り込み発言も具体性ゼロ

  4. 9

    確率2%の抽選で10万円で永住権を手にした在米邦人が語る 7億円「トランプ・ゴールドカード」の価値

  5. 10

    日産の命運を握るのは…米投資ファンドKKRとみずほ銀行、そして元役員なのだ

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    平野紫耀から杉咲花に「翠ジンソーダ」キャラクターわずか1年でバトンタッチのナゾ…平野ファン大混乱

  2. 2

    小芝風花は大河「べらぼう」とBS時代劇「金と銀2」“NHK掛け持ちW主演”で大丈夫なの?

  3. 3

    自公維の「高校無償化」に慶応女子高の保護者が動揺? なぜだ?

  4. 4

    中村芝翫「同棲愛人と破局宣言」で三田寛子の夫婦関係はどうなる? “梨園の妻”の揺れる心中

  5. 5

    佐々木朗希「通訳なし」で気になる英語力…《山本由伸より話せる説》浮上のまさか

  1. 6

    大阪万博の目玉 344億円の巨大木造リングはほぼフィンランド産…「日本の森林再生のため」の嘘っぱち

  2. 7

    吉沢亮のアサヒビールだけじゃない!業界別CM「絶対NG」のタレントたち…ケンカ、運転事故、不倫はご法度

  3. 8

    開成合格でも渋幕に入学する学生が…強力なライバル校出現で揺らぐ唯一無二の存在

  4. 9

    【福井県おおい町】名田庄の自然薯そばと「大飯温泉」

  5. 10

    確率2%の抽選で10万円で永住権を手にした在米邦人が語る 7億円「トランプ・ゴールドカード」の価値