稲盛和夫氏が母校の生徒に強く訴えた「思い」の大切さ…心が運命を決めると説いたワケ
「思い」の集積がその人の運命をつくる
さらに、「思い」はもう一つ、大きな役割を持っています。それは、「思い」の集積されたものが、その人に合ったような境遇をつくっていく、ということです。あるいは、「思い」の集積されたものが、その人の運命をつくっていると言っても過言ではありません。
そのことについて、今から100年ほど前に活躍したイギリスの哲学者ジェームズ・アレンは、「人間は思いの主人であり、人格の制作者であり、環境と運命の設計者である」と言っています。
その人の周囲に何が起こっており、そして現在どんな境遇にあるのか。それはまさに、今までその人がずっと心に抱いてきた「思い」が集積されたものです。
ですから、「私は不幸な運命のもとに生まれた人間なんだ」とひがんだところで、何の意味もありません。その運命は他人が押しつけたものでもなければ、自然がもたらしたものでもなく、他でもない、自分自身の「思い」がつくり出すものだからです。
家族との関係、隣人との関係、仲間同士との関係など、人間関係のすべては自分の心の反映なのです。「自分の周りには意地悪な人、騙したりする人、悪さをする人がたくさんいる」と我々はついつい思ってしまうのですが、それも自分自身の心の反映なのです。
多くの宗教家や聖人、賢人がみなそういうことをおっしゃっているのですが、誰も自分が抱く「思い」にそれほど大きなパワーが秘められているとは信じていません。しかし、信じていなくても、実際には人生の結果も、人間関係も、地域社会との関係も、すべては自分の「思い」がつくり出しているものなのです。
◼️私たちの社会は人類の「思い」から生まれた
このように、「思い」には我々の人間性、人柄、人格を形成していくという面と、我々の境遇、周囲の環境をつくり出していくという面の二つの側面があるわけですが、さらに「思い」が持つ偉大なる力を端的に示しているのが、現在の文明社会の成り立ちです。
今から約250年前にイギリスで起こった産業革命を機に、人類は近代的な文明社会を築いていきました。
それは、人類の「思い」から生まれたものです。
もともと人類は、木の実を拾い、魚を獲り、獣を捕まえる狩猟採集の生活を行い、自然と共生していました。
しかし、今から1万年ほど前に、人類は自分たちで生産手段を持ち、穀物を栽培し、家畜を養って食べるという農耕牧畜の時代へと移っていきました。狩猟採集の時代には、人類は自分たちの意志だけで生きていくことはできませんでした。それが農耕牧畜によって自然のおきてから離れ、自分たちの意志で生きていけるようになったのです。
そして、およそ250年前に産業革命が起こりました。人類は蒸気機関を手に入れ、工場で多くの機械を使い、さまざまな製品を生産するようになりました。
それからというもの、人類は次から次へと発明発見を行い、科学技術が著しく進歩し、今日のすばらしい文明社会がつくられていきました。悠久の歴史の中で、わずか250年という短い時間で、人類は豊かな文明社会を築き上げたのです。