稲盛和夫氏が母校の生徒に強く訴えた「思い」の大切さ…心が運命を決めると説いたワケ
なぜ「思いつき」がとても大事なのか?
なぜ、これほどまでに科学技術が発達してきたのでしょうか。それはとりもなおさず、人間が本来持っている「思い」というものがもとになっています。
人は誰でも、「こうしたい」「こういうものがあったら便利だ」「もしこういうことが可能ならば」という「思い」が、心に浮かんできます。例えば、今まで歩いたり走ったりしていたところを、「もっと速く、便利に移動する方法はないだろうか」と思い、そこから「新しい乗り物がほしい」という夢のような「思い」を抱くようになります。
そして、その夢のような「思い」が強い動機となって、人間は実際に新しいものをつくっていきます。何度も失敗を繰り返しながら、新しい乗り物をつくり出していくのです。そのようにして、ある人は自転車というものを考案しました。またある人は自動車を発明し、またある人は飛行機をつくりました。
そういう具体的なものを発明し、つくっていく際には、頭で考え、研究しなければなりませんが、その発端となるのは、心の中にふっと湧いた「思いつき」です。
一般には、よく「そんな思いつきで、ものを言うな」と言われるように、「思いつき」というのは軽いことだと思われがちです。
しかし、実はその「思いつき」こそが非常に大事なのです。人の心に浮かんださまざまな「思いつき」が発明発見の原動力となり、今日の科学技術を生み出したのです。このように、「思う」ということは物事の出発点となります。人間の行動は、まず心に「思う」ことから始まるわけです。
この「思う」ということがなければ、人間は何も行動を起こすことができません。多くの人は、「思う」ことを簡単なことだととらえ、軽んじていますが、「思う」ことほど大事なものは他にありません。
(2014年10月4日 鹿児島市立玉龍中学校・高等学校での講演より)
▽稲盛和夫(いなもり・かずお)
1932年、鹿児島市に生まれる。1955年、鹿児島大学工学部を卒業後、京都の碍子メーカーである松風工業株式会社に就職。1959年4月、知人より出資を得て、資本金300万円で京都セラミック株式会社(現京セラ株式会社)を設立。代表取締役社長、代表取締役会長を経て、1997年から取締役名誉会長(2005年からは名誉会長)。また1984年、電気通信事業の自由化に即応して、第二電電企画株式会社を設立、代表取締役会長に就任。2000年10月、DDI(第二電電)、KDD、IDO の合併により株式会社ディーディーアイ(現KDDI 株式会社)を設立し、取締役名誉会長に就任。2001年6月より最高顧問となる。2010年2月には、政府の要請を受け株式会社日本航空(JAL、現日本航空株式会社)会長に就任。代表取締役会長を経て、2012年2月より取締役名誉会長(2013年からは名誉会長)、2015年4月に名誉顧問となる。一方、ボランティアで、全104塾(国内56塾、海外48塾)、1万4938人の経営者が集まる経営塾「盛和塾」の塾長として、経営者の育成に心血を注いだ(1983年から2019年末まで)。また、1984年には私財を投じ公益財団法人稲盛財団を設立し、理事長(2019年6月からは「創立者」)に就任。同時に、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰する国際賞「京都賞」を創設した。2022年8月、90歳でその生涯を閉じる。