4年でラグビー日本一に ヤマハ清宮監督が説く「言葉の魔術」
「偶然」を排除しなければチームは強くならない
ラグビー界で勝ち続ける男がいる。早大、サントリーで現役と監督をそれぞれ務めたヤマハ発動機の清宮克幸監督(47)だ。10年度に入れ替え戦に出場するなど、どん底だったチームを就任わずか4年で立て直し、今年2月、ついに日本選手権制覇を成し遂げた。勝てる組織づくり、選手を引きつける人心掌握術の秘密に迫る。
――11年にサントリーからヤマハの監督に就任。当時ヤマハはプロ契約を廃止、入れ替え戦も経験するなど、部の存続さえ危ぶむ声がありました。
「最初に、自分が何を大切にしているかということを、ゲームでの具体的な数字やデータを示しながら、選手にプレゼンテーションしました。その上で気持ちに訴えました。1年目はレギュラーの半分が出ていってしまったチーム。残ったメンバーで勝って泣き、負けて泣こうと。他のチームは勝って泣きませんよ。ヤマハだけがギリギリでやっているから、勝ったら優勝騒ぎで、負けたらシーズンが終わったかのようになる。実はそれが強みだと。『オレはそのシーンを見て感動した』と選手に伝え、『君たちの熱い気持ちを軸にしてチームをつくる』と宣言しました。さらに、みんなに向かって『日本一!日本一! 日本一!』と連呼しました。狙わないと日本一にはなれない。何でもいいから一つでも多くの日本一をつくっていこうぜ! と。例えば、ボールを投げる人はスローイング日本一、スクラムハーフならパス日本一、パワーに自信があるならベンチプレス日本一でもいいんです」
■言葉を使って選手たちを促す
――早大、サントリー、そしてヤマハで優勝。清宮監督はなぜ勝てるのですか?
「早大の頃から、こうやったら勝てるという『必然』を説いてきました。これができたらこうなる、だからこうしようと。それを当たり前のようにやってきました。みんなの当たり前のレベルが上がれば、試合でも勝てるようになります。地力がついてベースが上がった4年目のシーズンは必然の得点が凄く多くなりました。練習をした形のトライが増えて、偶然のトライが少なくなったんです。必ずそうなるんだという必然のラグビーですね」
――「偶然」は嫌いと聞きました。
「嫌いというか、監督、コーチの立場から、そういったものを排除していかないとチームは強くならないんですよ。“なぜかトライにつながった”みたいなものをできるだけ排除しようと。選手たちが自分のプレーをしっかり語れるようにするんです。『あのスクラムはなぜ押せたんだ?』と聞くと、『ここがこうなったから押せたんです』とはっきり答えられる選手と『分かりません』という選手とでは再現性が違います。『あの1分、何で抑えられたんだ?』と聞いて答えられる選手はミスを繰り返しません。そういうところも『必然のコーチング』ですね。ミスを再現させず、成功を連続させる。そのために必要な切り口とか言葉を監督であるボクが見つけていく。その作業の連続でしょうね。うまくいかなかった原因がはっきりしているチームは改善できます。ボクの指導スタイルの一つはそこですね」
――「言葉」が大事だと?
「ボクの指導は厳しくはないと思います。行動することを言葉に換えていくだけ。言葉をうまく使って選手たちを促します。目標を達成するために、これをやらなければいけないと言った方が選手って落ちる(納得する)。例えば、姿勢が悪い選手がいて『姿勢が悪い』と注意するのか、『その姿勢で長くやっていると、ケガをするよ。背骨が脊柱側彎症になるよ。だから真っすぐにしないといけないんだよ』と諭す方が説得力があるでしょう。そうやって一つ一つ落としていくんです。そのために必要なものを言葉、つまりワード化していくんです」