マウンドから舞台へ 元阪神・嶋尾康史が役者に捧げた20年
役者未経験のままいきなり芸能界に飛びこんだ嶋尾さん。一人前の俳優になるまでには苦労が絶えなかった。
「野球の場合、投手ならどんな形でも打者を抑えればそれでいい。役者にはそんな明確な答えがない。現場の監督が演技後にOKをくれても、その演技が本当によかったのか、違う演技が出来たんじゃないかと自問自答してしまうのです。色々な役を経験するにつれ、相手との息遣いや自分の動きなどにもこだわりが出てくる。そうなると、どんどん演技に欲が出る。野球も難しいですが、その難しさとはまた一味違う。もう20年近くやってますが、私にとっては永遠の課題かもしれません」
■イチローに「4打数4安打」の苦い記憶
野球界での苦い思い出は一、二軍を行き来していた92年。オリックスとの二軍戦で1年目のイチローと対戦し、4打数4安打を許したことだ。
「まだ当時のイチローは登録名が“鈴木”でしたが、どこに何を投げてもバットの芯で完璧に打たれました(苦笑)。試合後に、監督やコーチに『なんで一軍経験があるオマエが新人に打たれるんだ!』と、もの凄く怒られたことを鮮明に覚えています。一軍ならまだしも、二軍であそこまでボコボコにやられたのはなかったので。でも、その2年後に彼は大ブレークでしょ。『あの鈴木君か、やっぱりな』とすぐに思いました。向こうはもう覚えてないと思いますが、私はあの対戦は…一生忘れられません」