白い糸を引くように真一文字に吹っ飛んで勢い増す“快速球”
勝負球の右打者外角低め速球。力を入れて投げる150キロ近い快速球が、シュート回転しなくなった。
投球にスキがなくなった。タテのカーブは横ブレしなくなり、カットボールとフォークの制球も安定。変化球同士の緩急で追い込めるから、打者はいきなりノド元に刃を突きつけられたようなものだ。圧倒されて打ち損じを重ねてしまう。スキのない投手になった。
タイミングを外そうとする意識、モーションを起こす前の<間>にバリエーションをつくって、投げる前にすでに一度、打者と勝負している。
もう立派な「プロ野球投手」になっている。
この冬を境にしたこの投手の変身ぶりは、文字通り<劇的>なものだった。
入学当時から誰もが認めていた素質。
手がつけられないような快投もあったが、勝手に力み返って序盤で自滅……。アテにならない投手だったのが、昨秋の主将就任を機に「人が変わった」と関係者の誰もが言う。
彼が今、投げているのはボールなんかじゃない。
最後の秋、神宮のマウンドから森下暢仁が投げ込んでいるのは、それは「エースの責任」である。