佐々木「夢の170キロ」に大騒ぎ 執拗に球速を求める危うさ
日本球界でも「神様、仏様、稲尾様」と言われた通算276勝の稲尾和久(西鉄)は抜群に制球が良かった。1958年、巨人との日本シリーズで7試合中6試合に登板して日本一の立役者となった右腕は、逆球を投げた経験について「片手くらいあるかな」と答えたという。あれだけ投げまくった「鉄腕」が、逆球はたった5回しかなかったということだ。
メジャーも日本のプロ野球も、いまやデータ全盛。膨大な統計をもとにはじき出した戦略を、グラウンドで生かそうと躍起になっている。極端な守備シフトなどはその典型だが、あくまでも投手は狙ったコースに投げるのが前提。左打者に引っ張らせて右方向にゴロを打たせようとしているのに、投球が外角に外れたり、ワンバウンドしたりしてはシフトも意味をなさない。
■スピードガンの普及も影響
「投手が制球以上に球速にこだわるようになったのは、スピードガンの普及が大きいと思う。制球力に明確な基準はありませんけど、球速はハッキリと数字に表れ、一目瞭然で分かりやすい。選手も指導者も競うようにスピードを求めたのでしょう。ことさらに球速にこだわるマスコミの影響も大きいですよ。それに打者のレベルダウンもあるでしょう。同点の九回2死満塁フルカウントからベースの手前でワンバウンドするフォークを空振りして三振に倒れながら、フォークだから仕方ないと悪びれることなくベンチに戻ってくるプロ野球選手すらいるそうですから。