三田村昌鳳氏 日本ゴルフ界は右に倣えで使命感が足りない
コロナ禍の自粛要請から、国内のスポーツイベントはすべて止まったままだ。ゴルフ界も打撃を受けている。男子ツアーは6月末までの7試合、女子ツアーは開幕から18試合の中止が決まり、両ツアーとも再開の見通しが立たない。いっぽう、米ツアーは4月半ばに「チャールズ・シュワブ・チャレンジ」(6月11~14日)からの再開をいち早く発表した。米女子ツアー、米シニアツアーも4月中に新日程を明らかにした。日米ゴルフ事情に詳しいゴルフジャーナリストの三田村昌鳳氏は、この差をどう見たか。
■自分たちがリーダーだという使命感
――米国内でも新型コロナウイルス感染は完全に終息していませんが、米ツアーは再開に向けて行動が早いですね。
スポーツイベント再開に向けてどこが先鞭をつけるか、世界中が注目している。どこもやらないから自粛しよう、再開は急ぐ必要もないだろう、という発想では先が見えない。米ツアーは世界一のゴルフ競技団体という自負がある。もちろん、このままでは米国のスポーツがダメになってしまうという危機感もある。まず自分たちがリーダーシップをとって動かないと、世界中のゴルフ団体も動けない。そんな使命感がある。同時に選手やファンに向けて、ツアーを再開するというメッセージを伝えることが何よりも大事と考えている。
――なぜゴルフが先なのでしょう?
ゴルフは野球やバスケットボールのように濃厚接触が危惧されるチームプレーではなく、個人プレー。屋外だから3密とは関係なく、ソーシャルディスタンスをとりやすい。また米ツアーのスタッフには政府関連機関OBが多く、あらゆる方面に強いパイプがある。米政府やCDC(疾病対策センター)などと緊密に連携をとり、大会開催に向けてシミュレーションを行い、2カ月近い時間があれば再開できる自信があるからです。
――再開までの準備はどうするのですか?
完全に終息はしなくても、どういう条件下なら試合を開催できるか万全の対策を考えている。最初の4試合は無観客。100万個の検査キットを用意し、選手、キャディー、大会スタッフの健康管理を完全に把握する。また指定ホテルに選手を隔離して、食事もそこでとらせる。感染を拡大させない手だてを何重にも張り巡らしている。
――もし6月11日の日程が延びたら、問題になりませんか?
それは構わない。なぜかというと、法華経に化城喩品という教えがあり、目的が程遠く、なかなか姿も形も見えない時に大概途中でめげてしまう。そんなときに、仮のゴール(化城)をつくって、そこにまず進む。到達したら、次の仮のゴールに進むことでモチベーションを保つことができる、という教えと同じです。目標ができれば選手も閉塞感から解放されて、前向きになり、練習にも熱が入る。米ツアーは前例にとらわれず、やることが大胆です。
――どういうことでしょう?
メジャー日程を大きく動かした。全米オープンを6月から9月へ、マスターズは4月から11月に移動と2020~21年シーズンを思い切り変えた。スケジュールを大胆に変えるだけの発想と勇気があり、当然スポンサーやテレビ局の了解をとるなど、さまざまな問題をすべてクリアしている。
――いっぽう、わが国の男女ツアーは、先がまったく見えません。
日本ゴルフツアー機構(JGTO)も日本女子プロ協会(JLPGA)もプロゴルファーが中心になって運営している。「前例がない」という理由から変われないプロスポーツ協会は、もう組織疲労が起きている。それに政府はもちろん、試合を開催する都道府県とも連携プレーがとれていない。有事に各専門機関と情報を共有できるスタッフが不在で、コロナ騒動の中で孤立している。だからツアー再開を発表してバッシングに遭うのを怖がっている。
――プロ野球やJリーグの動向を見ているような感じですね。
日本のゴルフ界はすべて右に倣え。それが悪いわけではないが、ずっと自粛してステイホームと言えば、人間はストレスがたまる。もっとも米ツアープロにはハラハラ、ドキドキ、ワクワクがあり、どちらかといえばサーカスのマジシャンの集まりみたい。そんな大会を待ち望むファンが多い。しかし残念ながら日本のトーナメントでは、アマチュアがとうていマネできないような、という場面が少ない。