部長の琴線に触れた中部地区の遊撃手は脚力と肩に強さ
「結果だけ見ればそうかもしれないが……」
甲子園の交流試合は16試合で3本塁打。視察してきた部長に、「特に野手はパッとしなかったんじゃないですか?」と水を向けると、こんな答えが返ってきた。
「花咲徳栄の井上、明石商の来田、東海大相模の西川、履正社の小深田……このあたりがボカスカ打てば評価も上がったかもしれない。重要なのはプロで通用するだけのものを備えているかどうか。脚力、肩の強さ、バットスイングの軌道や振りの鋭さなどは、結果にかかわらずチェックできる。それを見極めるのがオレたちの仕事だからな」
今年の甲子園は、1球団につき2人のスカウトしか入ることができなかった。ウチは部長やエライさんたちが交代でチェックして、オレは当然のことながら留守番。他球団もだいたい似たような体制だろう。最初はオレの目を信用してないのかとムカついたけど、1試合という限られた中で選手の能力を見極めるのは至難の業だし、責任も大きくなる。実は甲子園組から外れてホッとしてる部分もある。
「野手のグラブさばきや肩に関しては、試合前のノックがかなり参考になった。ただ、やっかいなのは足だ。一塁まで走るスピードをストップウオッチで測るんだが、打った直後の体勢によってタイムも違う。やたらと足が速く回転してるように見えて実は遅いのがいるかと思えば、逆にどう見ても速そうじゃないのにストライドが大きくタイムが秀逸なのもいる。チェックする機会の少ない高校生の評価に関していえば、今年は球団によってかなり差が出るだろうな。ま、性格も含めて最終的にはおまえたち担当スカウトの調査が重要になるんだぞ」