現役引退した阪神藤川は打たれる姿も絵になる投手だった
藤川球児が現役を引退した。敬意と親愛の情を込めて、あえて球児と書かせていただくが、最近の球児はたとえ公の場であっても、どこか柔和でちゃめっ気のある笑顔を振りまくことが多かった。全盛期の球児はどちらかというとチームメートにも諫言をいとわない物申すタイプで、特にシーズン中はいつも鬼気迫るような悲壮感のある顔をしていたから、今の彼を見ていると不思議な感覚になる。なんだか憑き物が落ちたような、そんな軽やかな印象を受けるのだ。
おそらく、終盤の球児は来るべき引退の日に向けてチーム関係者や全国のファンに御礼行脚をしていたのだろう。プロの勝負師としては奇麗さっぱり区切りをつけて、残された時間で純粋に野球を楽しんでいるように見えた。
一部で期待されていた250Sの達成も彼にとっては本当にどうでもよかったようだ。それはきっと「あきらめ」ではなく、積極的な生き方なんだと思う。その笑顔の裏では、相当な肩と肘の痛みがあったのだろう。
そんな球児に思いを馳せると、当然いろいろなシーンが脳裏に蘇ってくる。ブレークした05年の80試合登板と一世を風靡したJFK時代の活躍。06年のオールスター第1戦で見せた予告ストレート、第2戦の清原和博との対決、07年の10試合連続登板、日本代表として挑んだWBCや五輪。記録面でも06年の38試合連続無失点や47回3分の2連続無失点、07年のシーズン46S(当時のNPB記録)は特に印象的で、全盛期の火の玉ストレートはまさに魔球だった。LINDBERGは私が中高生時代にはやったバンドだけど、球児によって蘇り、今や普遍的な存在になった。