東京五輪中止はWHO“鶴の一声”ならあるのか?格はIOCより上
頼みの綱が「外圧」というのも情けない話だが。
東京五輪は7月23日の開幕まで50日を切ったが、コロナ感染は収束せず、ワクチン接種も当初の予定より遅れている。「平和の祭典」を心待ちにしている国民は少ない。
8日に行われた参院厚生労働委員会では、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「IOC(国際オリンピック委員会)に日本の状況を知ってもらい、理解してもらうことが大事」と提言。尾身会長は3日の同委員会で「パンデミックの中で開催することが普通ではない」と警鐘も鳴らしていた。
しかし、五輪を強行したい政府は馬耳東風。壊れたスピーカーのごとく「安全安心」を繰り返すばかり。菅首相は7日、「国民の命と健康を守れなければ、やらないのは当然だ」と、初めて中止に言及したものの、具体的な基準は語っていない。国内ではすでに1万3000人以上がコロナで死亡している。今更、「国民の命と健康を守る」といわれても、信頼できる国民がどれだけいるか。
ここまでくると、「外圧」でしか五輪は中止にできないのではないか。尾身会長はIOCに、日本の現状や感染リスクなどに関する専門家の見解を伝えたいと言ったが、五輪を一番やりたがっているのはIOCだ。日本の感染状況や検疫体制の詳細を知らせたところで意味はない。
WHOは国連の機関、IOCは非営利組織
ならば、WHO(世界保健機関)はどうか。7日、WHOの緊急対応責任者であるマイク・ライアン氏は国際的に規模の大きいスポーツ大会について、「危機管理を保証できない場合、開催を再考すべきだ」と話した。これはサッカーの南米選手権を指して言ったものだが、大会規模は五輪の方がはるかに大きい。
スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏は「WHOが『五輪は中止すべきだ』と言えば、IOCは即座に中止に動くでしょう」と、こう続ける。
「WHOは国連の機関。NPO(非営利組織)でしかないIOCとは組織としての格が違います。IOCもWHOの提言に忠実だったからこそ、その権威が保たれてきた面もある。ただ、WHOは今、資金難にあえいでいる。情報収集能力に関しても疑問なので、どこまで日本の状況を把握しているか。日本政府やIOCの主張をうのみにしている可能性もあります。さらに、WHOは研究者や科学者の集まりではない。非常に政治性の強い組織です。資金援助をしてくれる大国の意向にも左右されるので、動向が読みにくいのです」
かくして国民の命と健康を燃料に「五輪丸」は突き進む――。