投手を見るのにスピードガンではなく、ストップウォッチを2個持っていた理由
■雄星フィーバー現象
最も大変だったのは花巻東の菊池雄星(現・ブルージェイズ)だ。私にスカウトのイロハを教えてくれた菊地敏幸・東日本統括スカウト(当時)とコンビを組んで張り付いた。
初めて見たのは2年生だった2008年春の東北大会だった。仙台育英戦で公式戦初先発の菊池が完投し、6-2で強豪に快勝。この試合の直球は140キロほどだったが、他の試合で149キロをマーク。左肘の使い方がうまく、球にキレがあり、ボールが「指に長く乗っている」投手というのが第一印象だ。
3年春のセンバツ前には12球団のスカウトの間で「今年のナンバーワン」と視線を独り占めする左腕に成長。阪神も早い段階から「1位は雄星でいこう」と内定状態になっていた。
準優勝したセンバツ後、フィーバーとなった菊池の試合はすぐに満員御礼になるため、通常より何時間も前倒しし、開門前には球場に着くように出発した。駐車場はすぐに満車になるから、車は厳禁。球場周辺は大渋滞で、タクシーやバスも進まなくなる。やっとの思いで到着しても、チケット売り場は何百メートルも長蛇の列。中に入っても空席がない。一塁側のライト寄りの上の方の1席しか確保できないこともあり、これならテレビで見た方が良かったと思うこともあった。
最速154キロの直球と打者の手元で鋭く曲がるスライダー。高卒でも早い段階で一軍の戦力になれる。即戦力に近いとみていた。阪神は投手が補強ポイントだった。菊池以外の1位の選択肢はなかったが、ドラフト前に騒動が起こった。