森保ジャパンの“韋駄天”FW浅野拓磨の「原点」とは 高校時代の恩師に聞いた
真面目で謙虚で純真で
──両親やきょうだいと非常に仲が良く、三男坊の浅野が17歳下の妹を可愛がる姿がテレビ番組で放映されて反響を呼びました。
「ストライカーというのは、往々にして自分勝手だったり、突っ張りタイプの方が結果を残すものですが、拓磨は優しくて真面目で謙虚で穏やかで純真で……本当にいい子なんですよ。ただ優し過ぎるのもマイナスだと思います。日本代表になった今でも、チームメートに配慮したようなプレーが見られるので『もっと強引に! 自分でシュートを打て!』と歯がゆく思うことがあります」
──当時からプロ志向は強かった?
「プロになりたい! と口に出すことはありませんでしたが、どんな練習でも全力で取り組み、いつの試合でも実力の100%を出し切るということを徹底し続け、それが<絶対にプロになる>という強い意志となって伝わってきました。四中工では入部の際に<将来の夢>を書いてもらう。ほとんどの生徒がJリーガーになりたい、海外でプレーしたい、日本代表に選ばれて活躍したいと書きますが、琢磨ほど夢に向かって真摯に取り組んだ部員はいません」
──高校2年のときに出場した高校サッカー選手権では1回戦から決勝までの全5試合でゴールを決め、チームを準優勝に導いて得点王のタイトルも獲得しました。
「毎試合ゴールを決めたことも素晴らしい記録ですが、拓磨の<ここぞという場面でゴールを決めてくれる>という能力を選手権という大舞台で遺憾なく発揮してくれました。3回戦の立命館宇治高戦のロスタイム、続く準々決勝・中京大中京高戦のロスタイムに同点ゴールを決めてくれ、PK戦をモノにして勝ち上がることができました。野球界では<チャンスに打てない3割バッター>という言葉がありますが、まったく拓磨には当てはまりません。カタールW杯最終予選4戦目・オーストラリア戦(2021年10月12日)でも、拓磨らしさが見られました」
──森保ジャパンは最終予選序盤●○●とスタートダッシュに大失敗。4戦目のオーストラリア戦を前にグループ上位2チームに勝ち点6差をつけられた。勝ち点3獲得が至上命令のオーストラリア戦は後半25分に同点弾を決められ、浅野が後半33分に途中出場した。
「残り5分を切った場面でしたね。自陣からの縦パスに反応して右足でトラップした瞬間、ゴールが決まる予感がしました。ゴール左サイドから放った左足シュートがGKの左手をはじき、そのこぼれ球が右ポストに当たって相手DFのオウンゴールを誘発したわけですが、ああした厳しい局面で<ゴールを決めてくれる!>という空気感を醸し出す選手なのです」
──W杯の最終予選でFWの伊東、三笘らがクローズアップされたが、森保ジャパンの首の皮一枚をつなげた浅野が最大の功労者と言っていい。
「私自身、本当にそう思っています。15年のJリーグ・チャンピオンシップを思い出します。G大阪との決勝・第2戦で拓磨が主軸FW佐藤寿人選手に代わって登場し、終盤に貴重なゴールを挙げました。拓磨が<持っているFW>であることを森保監督は広島の指揮官時代から自覚し、それで日本代表に拓磨を招集し続けていると思います」