山本由伸のフォームを徹底分析 欠点にもなり得る左足の突っ張りを長所に変える上半身の使い方
左足を突っ張るように…
一番の特徴が⑧以降の左足の使い方。⑩からが特に顕著で、踏み出した左足を突っ張るようにして投げている。オーソドックスといわれるフォームでは、⑧の段階で左足は折れる。そこから前へ体重を移動しながら徐々に左足が伸びていき、⑭のフィニッシュの形に収まるものだ。
これだけ左足が突っ張ると、普通は上体がのけ反ったように上を向いてしまい、球は高めに浮いてしまう。重心の位置が後ろ寄りになることで体重が前に乗りにくく、後ろにお尻が残ってしまうような形になる。フィニッシュの際も一塁側に体が倒れたり、体勢が崩れてしまいやすい。
山本由も⑩で胸が上を向きかけるものの、⑪から上体を前に倒すようにして、見事に体重移動している。股関節を含め、体の使い方が抜群にうまい証拠だ。捕手を見据え、まったく乱れのない⑭のフィニッシュに完成度の高さが集約されている。
最近ではメジャーでも活躍した上原浩治氏が、左足を伸ばして投げていた。巨人への入団が決まった際にフォームの連続写真を見て、「これだけ左足が突っ張ったら、球は低めにいかない。1年目から活躍を期待するのは厳しい」と感じたが、ルーキーイヤーに20勝。予想は裏切られ、考えさせられた経験がある。
山本由の左足は上原氏よりさらに極端だが、⑩までにため込んだ力を左足を突っ張ることで一気に止めて、⑪のリリースの瞬間に転換できる効果を得ている。ただし、誰にでもできる芸当ではない。前述したように、股関節と上半身の使い方をセットで考える必要があり、単純に左足を突っ張ればいいんだろうという話ではもちろんない。
キャンプ序盤に、中日の有望株で侍ジャパンにも選出された高卒3年目の高橋宏斗のフォーム改造が話題になった。自主トレを共にした山本由に影響を受け、同じようなフォームで投球練習。立浪監督に、「山本には山本のいいところ、高橋には高橋のいいところがある」と苦言を呈された一件だ。指揮官の気持ちはわかる。当たり前だが、山本由のフォームは自分の理想とする形を追い求めて試行錯誤する中でつくり上げたもの。一朝一夕にはいかないと肝に銘じた方がいいだろう。
(高橋善正/野球評論家)