首位浮上の新井広島はなぜ得点力不足でも勝負強い? 秘訣は「伝統の機動力野球」復活にあり
18日にセ・パ交流戦は全日程を終え、セ・リーグは広島が2位から首位、阪神が首位から2位と順位が変わった。
巨人は3位と順位は変わらなかったが、首位とのゲーム差は3に広がった。巨人の交流戦は8勝9敗1分け。打率.241(7位タイ)、72得点(トップタイ)、防御率2.78(8位)で、2022年以来2年ぶり8度目の負け越し。これまで交流戦で負け越した7度のシーズンは、全てリーグ優勝を逃しているという不吉なデータがある。
巨人OBで元投手コーチの高橋善正氏(評論家)がこう言う。
「72得点はトップでも、9者連続安打を含む23安打で18点を取ったロッテ戦で稼いだだけ。全体的には相変わらずの貧打で点が入らず、開幕から踏ん張っていた投手陣に我慢がきかなくなりつつあります」
同じく貧打の阪神も交流戦の打率.212(11位)、38得点(10位)、防御率2.37(3位)。7勝11敗と失速し、セの首位から陥落した。
「投高打低の得点力不足は、巨人以上に深刻。阪神の場合は、安打も出ないので、岡田監督も采配のしようがありません」(前出の高橋氏)
“2強”がパ相手に苦しむ中、首位に浮上したのが広島である。交流戦は10勝8敗の5位。17年以来、7年ぶりの勝ち越しで、22年まで3年連続最下位の鬼門で貯金2をつくった。交流戦期間中の防御率1.85(1位)は断トツ。42失点(1位)も最少だった。
広島で投手コーチや編成部長などを歴任した川端順氏がこう言った。
「昨季までと比べて最も大きな変化は、センターラインの守備陣が劇的に強化されたこと。今季は遊撃に小園ではなく、守備力の高い矢野が入った。鉄砲肩と守備範囲の広さで、ヒット性の当たりを何本もアウトにしている。二塁の菊池との二遊間コンビは、12球団ナンバーワンでしょう。センターの秋山の守備範囲も広く、センターラインは鉄壁。遊撃だった小園を三塁に回すと、打撃が開花する(打率.292でリーグ2位)相乗効果もあった。新井監督の眼力が投手陣の安定感につながっています」
■強固なリリーフ陣も強みに
先日ノーヒットノーランを達成した防御率1位(0.96)の大瀬良、同3位(1.49)で7勝を挙げている床田の左右二枚看板に、森下、アドゥワが5勝ずつと先発陣が整備された。アドゥワは佐々岡前監督時代までは中継ぎでフル回転していたが、新井監督が就任した昨季は、ロングリリーフなどで存在感を発揮。今季から先発に転向させたのも指揮官である。
さらに19セーブ(リーグ2位)、防御率0.33の守護神・栗林、21HP(同1位)のセットアッパー・島内を中心とした強固な救援陣も強みとなっている。川端氏が続ける。
「新井監督は菊地原、永川両投手コーチとコミュニケーションを密に取っていて、ブルペンで状態のいいリリーフ投手を確実にマウンドに送るようにしているそうです。野手出身の新井監督は『投手のことは分からない』とはっきり言っている。だから、思い切ってコーチ2人に任せている。連投を制限するなどルールは決めているようですが、あれもこれも自分でやらず、コーチに任せるというのは、なかなかできないことです」
■「絶対もっと走れるはず」
得点力不足という巨人、阪神と同じ悩みを持つ。交流戦の打率は.234(9位)、55得点(8位)。それでも勝負強いのはなぜか。
これは新井監督が掲げる「カープの伝統的な機動力野球の復活」にある。ここまで36盗塁はリーグトップタイ。新井監督は「走者と打者の両方でバッテリーと相手チームにプレッシャーを与えながら戦うのがカープの伝統的なスタイル。これは絶対に復活させないといけないと思っていた」と1年目が終わった時に語っていた。
さるチーム関係者がこう証言する。
「佐々岡前監督時代はリスクを嫌い、作戦は送りバントのみという状況だった。弱気な監督の采配が、走ってはいけないという空気を生み、22年の26盗塁は12球団最少。新井監督は『絶対にもっと走れるはず』と外から歯ぎしりしながら見ていたそうです」
積極的な姿勢は、リーグ断トツの盗塁企図数「68」にも表れている。球団内で評価はうなぎ上りだ。チーム関係者の間でも「大した補強もしていないのに、新井監督の『やりくり力』はすごい。目安の5年どころか、長期政権になるんじゃないか」とささやかれるほどだ。
阪神・岡田監督は開幕前、「ライバルは絶対巨人よ」と言った。巨人・阿部監督も「打倒・阪神」とバチバチだったが、「2強」がつまずく中、「守」と「走」を強化した新井広島が、無視できない存在になってきた。