国内主要マラソン大会で男女ともに「運営ミス連発」の根本原因…元日本陸連競技委員長が語る
バイクに「どけ!」
アクシデントが発生したら、大会関係者が迅速に対応すればいいのではないか。その点について吉儀氏はこう言う。
「実際には難しいですね。マラソン大会にはライセンスを持っている地元陸協(都道府県の陸上競技協会)の審判員がコースの至る所にいます。彼らは大会ルールはわかっていますが、60歳以上の高齢者も多く、中継車とランナーが近すぎてアクシデントが起きたとき瞬時に飛び出して『車はこっち、選手はこっち』と機敏に指示できない場面が多い」
さらに吉儀氏は「名古屋ウィメンズのPMのミスは主催である陸連にも責任があるのでは」と、こう語る。
「お金を出して海外のPMを雇うのは陸連の強化委員会です。PMには大会前に、給水時の諸注意や折り返し地点などの確認をしっかりレクチャーしておかないといけないが、強化委は『1キロを3分で走ってくれ』とかのペース指示がメインで他の留意事項に関する徹底が不十分だと感じることが多い。強化委はペース以外の重要事項について競技運営サイドとの合同会議を入念にやるべきです。名古屋のPMがコースを間違えたことに関して陸連の高岡寿成シニアディレクターは『コースに関しては、運営の方々がアイデアを練って対策してくれるんじゃないかなと思います』とのコメントがあったと報じられたが、競技運営や審判サイドだけでなく、PMの選任や指導を担当する強化委を含めた協議と改善が必要ではないか」
こう言う吉儀氏がさらに問題視しているのはバイクカメラだ。
「今年の箱根駅伝5区で、中継のバイクが城西大の選手に接近し過ぎて、選手から『どけ』と注意を受けていた。私も審判長の時にそれこそ何百回も『(選手から)離れろ』『どけ!』と言いました。選手にくっつき過ぎるのも危ないし、カメラを持った人が体勢を変えるときにバイクから落ちそうになる。道路交通法上の問題はないのか」
東京が舞台の9月の世界選手権では、運営ミスや事故が起こらないことを祈るばかりだ。
▽吉儀宏(よしぎ・ひろし) 1944年島根県生まれ。順大名誉教授、医学博士。日本陸上競技連盟理事・競技運営委員長(2005~16年)、関東学生陸上競技連盟副会長(現顧問)、箱根駅伝審判長(07~15年)などを歴任。