「時の審廷」芦辺拓氏
<「権力者の企みはミステリーの犯人が仕掛けるトリックに通じます」>
弁護士兼名探偵の森江春策を主人公にした、人気「時」シリーズの第3弾。12年ぶりとなる今作は、3つの時代と都市を舞台に戦後史に残る事件を大胆に取り込んだ、伝奇小説の様相を併せ持つ長編ミステリーだ。
「高校生のとき、テレビ番組で見知った米国立公文書館から発掘された『占領プラン』に大きな衝撃を受けたんです。これは日米戦において日本が敗戦したとき、北海道と東北地方はソ連が、関東・中部・北陸はアメリカ、中国地方と九州はイギリス、四国は中国と、4カ国が日本を分割して支配するという取り決めで、いわば『日本分断』計画です。この計画があったことは紛れもない事実ですが、話が大きすぎてトンデモ話みたいですよね。で、敗戦から70年経った今なら、こうした一連の戦後史を伝奇として扱ってもいいのでは……。そんな発想から今作が生まれました」
物語の幕開けは現代。総選挙の投開票日、森江春策に「日本分断」と告げる謎の電話がかかってきた。そしてさかのぼること60余年前の昭和24年。大量殺人事件・大都銀行事件を追う新聞記者・和智の元に戦前に赴任したハルビンの知人から電話が入る。しかし、知人は変死。和智は、知人が残した「日本分断」の言葉の意味をさぐるうち、大都銀行事件と同時期に起こった国鉄総裁が怪死した汐山事件のつながりに思い当たる。