「瓶の中」高峰秀子著
■さまざまな顔を持った大女優がつづったフォトエッセー
2010年に亡くなった大女優の生誕90年を記念して復刻されたグラフィックエッセー。エッセイストとしても活躍した著者が、多くの著作の中でも特にお気に入りだったという本書は、収集したさまざまな愛用品についての思い出を写真を添えてつづる。
例えば、「人間が作った光の中でロウソクの炎ほど美しいものはないと私は思っている」と始まる「燭台」という題の一文。仏壇も神棚もないが、一年中ロウソクは欠かさないので、家には国内外の旅先で買い求めたいくつもの燭台があったという。アメリカで招かれたキャンドルディナーの体験を振り返りながら、便利さに慣れ過ぎた人々に、時に心のふるさとを思い出させてくれるロウソクの炎を見つめるよう勧める。
その他、ヨーロッパで買い求めたり、散歩の途中で拾った石を洗っては使っているという夫(映画監督の松山善三氏)の仕事机の上に転がる文鎮、年老いたお手伝いさんへのお土産に買った天眼鏡、そして古道具屋に転がっていた古いおひなさまの道具「湯桶」を転用した食卓の「しょうゆつぎ」など。普段は女優として人から与えられたセリフを口にするのが仕事だった著者が、日々の暮らしを彩るモノへの思いや人生について、等身大の女性の言葉にしてつづる。