「老いの入舞い」松井今朝子著
物語の舞台は江戸麹町。主人公の北町奉行所の新米同心・間宮仁八郎は、麹町の「常楽庵」に立ち寄るように命ぜられ、かつて大奥で「滝山様」と呼ばれ今は尼僧となった年齢不詳の庵主・志乃を訪ねた。
大奥仕込みの鼻持ちならない女に玄関先であしらわれると思いきや、仁八郎はなぜか志乃に気に入られる。あまりの居心地の悪さに今後関わりにならないようにしようと決意するのだが、事件のたびに空回りしてしまう仁八郎を、毎回志乃の知恵が救うのだった……。
本書は、仁八郎が遭遇した奇妙な事件とその解決に関わる志乃の活躍を描いた江戸麹町事件帖。
収録されているのは、祝言間近の娘が行方不明になる「巳待ちの春」、放火で父を殺されたと訴える娘の物語「怪火の始末」、はらみ女の死体が波紋を呼ぶ「母親気質」、奉公先から戻らない娘が水死体で発見された謎を解く「老いの入舞い」の4編。未熟ながら正義感に燃える仁八郎を見守る志乃の視線が温かい。
(文藝春秋 1500円)