第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞した藤崎翔氏に聞く
ミステリー作家の狭き登竜門「横溝正史ミステリ大賞」を今年受賞したのは、元芸人だった。受賞作「神様の裏の顔」(KADOKAWA 1500円)は、その笑いのセンスに、選考委員が満場一致で授賞を決めたという。驚愕のラストシーンに至るまで、テンポよく笑いと疑念と人間ドラマを織り込んだ物語は、どのように生まれたのか。その背景と現在の心境を聞いてみた。
舞台は通夜の席。元教師の坪井誠造(享年68)を慕う人々が大勢集っている。参列者は皆、故人の死を悼み、涙を流す。聖職者である教師のかがみと呼ばれるほどの人格者で、教え子、教師仲間、近隣住民らが皆、「神様のような人だった」と口にする。絵に描いたような善人の死を機に、物語が始まるのが「神様の裏の顔」だ。
「いい人、誰もが認める素晴らしい人格者って、ちょっと怖いですよね?そもそも一面的な人間なんていませんし、誰にでも裏の顔はある。さらにはそんな善人のそばにいる人間も、結構ツライんじゃないかと思いまして。ネルソン・マンデラ氏も世界中で高評価の好人物でしたが、奥さんとうまくいってなかった、なんて話もありますしね」