第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞した藤崎翔氏に聞く
元教師という人物像を描いたのは、自身の環境もあったという。
「母方の祖父母がふたりとも教師でした。早くに亡くなりましたけど、子供のときは『お堅い人で面白くないなぁ』なんて思っていたんですよね。でも祖父母と歩いていると、方々から『先生!!』って声をかけられたり、お中元やお歳暮が大量に送られてきたり。元教え子にかなり慕われていましたから、そのあたりは多少投影したかな」
人格者の素性が次第に暴かれ、疑念と不穏な空気が広がっていく描写がある。これが実に怖い。
「『正義』って怖いですよね。以前、武田鉄矢さんがテレビで『自分が絶対正義だと思ってるヤツがいちばんタチ悪い』とおっしゃっていて、まさにそうだなと思ったんです。たった一言の誤解で評価や信念が覆っていく、そんな人間の危うさや集団心理の恐ろしさも楽しんでいただければ」
謎解きの巧みな展開を求められるのがミステリーだが、そこだけにこだわっていない。それぞれの登場人物の生臭い人間ドラマもユーモラスかつ緻密に描いているのが特徴だ。