「波の音が消えるまで」(上・下)沢木耕太郎著
著者初のエンターテインメント小説だ。なんと博打小説である。しかも、博打シーンを物語の彩りにしているだけで主眼は別のところにあるというわけではなく、最初から最後まで博打がメーン。つまり、本格的な博打小説である。種目はバカラだ。
バカラを少しだけ紹介すると、カードを「バンカー」サイドと、「プレーヤー」サイドに2~3枚配り、その数の合計数の多いほうが勝ち。10の位はカットするので「14」と「8」なら、「8」のほうが勝ち。客はどちらが勝つのかを推理して賭けるゲームだ。
ディーラーの心理が投影されない一種の丁半博打なので、どちらが勝つかは常に五分五分。本来なら必勝法はあり得ない。にもかかわらず、必勝法を探す男が主人公になるのだ。その模索の過程が最大の読みどころ。
物語はとてもスリリングに展開していく。読み始めたらやめられない面白さだ。
最初から最後まで博打がメーン、と書いたけれど、実はそれ以外の要素もある。
主人公は若き日にサーファーであり、その後カメラマンにもなったので、回想では色彩感豊かなそういう青春の日々が描かれ、それもたっぷりと読ませることは書いておかなければならない。