【テレビの正体】「質の低下」が叫ばれるテレビ界。その嘆かわしい実態を検証する。
「内側から見たテレビ」水島宏明著
NHK“モミイ問題”の前からテレビ界の「劣化」は問題視されてきた。典型が、NHKはじめ各局が「全聾の天才音楽家」と持ち上げた「佐村河内事件」や「小保方STAP細胞騒動」。本書の著者は日本テレビで長年、報道記者やディレクター、番組のキャスターやコメンテーターまでほぼあらゆる役割を体験してきたメディア研究者だが、背景に「感動を欲する取材者や制作者たちの薄っぺらさ」があるという。
この傾向があらわになったのは「NHKニュースの民放化、バラエティー化」が始まってから。特に06年に始まった「ニュースウオッチ9」は「記者の顔出しリポート」という民放ならではのスタイルを露骨に模倣。実はそれまで民放記者は「大事なニュースはNHKがしっかり報道してくれる」と安心していた。だからこそクソマジメなNHKの逆張りが民放の強みになったのだが、いまやNHKが「行列のできるラーメン店」をトップに持ってきたりする時代。局内でも政治家・官庁に近い政治部や財界寄りの経済部が幅を利かせ、庶民に寄り添う社会部が弱体化しているらしい。
若者のテレビ離れが目立つ昨今、テレビ界の悩みは深い。(朝日新聞出版 760円+税)