昭和レトロを楽しむ編
「続・懐かしくて新しい昭和レトロ家電」増田健一著
昭和が終わってはや四半世紀。日本人の暮らしは大きな進化を遂げた。しかし今、昭和を振り返ると不思議とワクワクした気持ちになるのはなぜだろう。それは、あの頃の日本に、今では感じられない勢いがあったからではないだろうか。今回は、日本の元気の象徴だった家電のチラシをはじめ、昭和レトロを堪能できる4冊を紹介しよう。
暮らしを大きく変えた昭和の家電には時代のワクワク感がいっぱいだった。「タライ洗濯は…家庭婦人の健康と若さの大敵です!」。実はこれ、昭和30年ごろの東芝電気洗濯機のチラシに用いられたキャッチコピー。当時の洗濯機の宣伝文句には、それまでの手洗いという重労働からの解放を高らかにうたうものが目立つ。主婦たちの憧れの気持ちも、さぞかし刺激されたことだろう。
増田健一著「続・懐かしくて新しい昭和レトロ家電」(山川出版社 1600円+税)では、昭和30年代の日本人をワクワクさせた、さまざまな家庭用電化製品を、面白キャッチコピーやチラシとともに紹介している。
この時代の家電のキャッチコピーには、非常に大げさなものが多い。例えば、「屋根の下の軽井沢」。これは、東芝扇風機のキャッチコピーだ。昭和30年の高卒の国家公務員初任給は5900円。対して扇風機の価格は1万~1万5000円という高根の花だった。世のお父さんたちは頑張って月賦で扇風機を買い、「ど~だ! 涼しくて軽井沢みたいだろう!」などと得意げに言っていたに違いない。
“日本一”や“世界一”などの表現も多用されていた。松下(現パナソニック)の洗濯機は「日本でいちばん愛用されている洗濯機!」。日立の電気冷蔵庫は「東洋一のオートメーション工場から生まれる」。東通工(現ソニー)のソニーラジオは「世界のベスト3」。何がベスト3かといえば、“世界で最も小さい”“世界で最も便利”“世界で最も最高級”なんだとか。厳密にデータを取って本当に“○○一”だったのか……などと無粋なことは言いっこなしだ。
本書では、当時の家電宣伝の舞台裏を知る元東芝専属CMタレントの押阪忍氏や、松下や東芝の元宣伝課デザイナーのインタビューも掲載。家電を見るのも使うのも初めてだった日本人に向けた、チラシや取扱説明書の工夫のポイントなどが語られている。未来への夢や希望が詰まっていた昭和のレトロ家電を見ると、当時の日本の元気や勢いが伝わってくる。