遅咲きのジュリアン・ムーア 最新の話題作「アリスのままで」
遅咲きの役者は長持ちする。その典型がジュリアン・ムーアじゃないかと思う。なにしろ「ブギーナイツ」で注目されたのが37歳。初めから成熟した印象のおかげで50代半ばでも役柄が狭まらない。そんな彼女の最新の話題作が先週末封切りの「アリスのままで」だ。50歳で若年性アルツハイマーを発症した女性言語学者の役でアカデミー主演女優賞受賞というので既に評判だが、単なる難病ものの域を超える脚本の書きこみと演出が冴える。
たとえばヒロインの夫は理解ある優しい男だが、妻の病気が医師としての自分の野心の邪魔になるのを内心警戒しているのがあらわだし、ヒロインも「これががんなら誰もが同情してくれる。でも今の私は同情される自分が誰かすらわからなくなる。それが何より恥ずかしいの」と吐露する。真の苦境に立った人間性のとらえかたが一段深いのだ。
ちなみに2人の共同監督のうちR・グラッツァー氏は長年ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患っていたというから(映画の公開直後に死去)、そんなことの反映もあったのだろうか。
思えばアルツハイマー病を世間が強く認識したのが1972年に出版された有吉佐和子著「恍惚の人」(新潮社 670円+税)から。しかし今、この小説を読むとどこか牧歌的に感じてしまうのは、それだけ時代が深刻になった証しかもしれない。