インヒアレント・ヴァイス
将来を嘱望されながら消えた往年の美男美女に、銀幕で再会することがある。現在公開中の映画「インヒアレント・ヴァイス」のエリック・ロバーツもそれ。
80年代初頭、イケメン演技派として注目されながら演技オタク特有の自己破壊願望で汚れ役に挑戦するうちに脇役へ。
それが今回は「行方不明になったナチスかぶれのユダヤ人の成り金」というワケワカラン役で結構いい味を出していたのだ。
話の舞台は70年代初頭のロス。ホアキン・フェニックス扮する主人公は私立探偵だが、ノワール・ヒーローとは裏腹にモジャモジャ頭で、サンダル履きのマリフアナ大好き天然ヒッピー。
謎の前衛作家トマス・ピンチョンの原作もヒッピー文化が曲がり角に差しかかったこの時期を知る70年代世代なら百倍楽しい小ネタ満載小説だが、敵役の警部補を演じるジョシュ・ブローリンが「ポイント・ブランク」のリー・マービンに密かなオマージュを捧げるなど映画はよりディープな味わいに徹し、それが逆に「70年代も遠くなりにけり」という感慨をもたらすのである。