アツイ芸術をクールにまとめる“技”
一方、切れば血が出る生身の人間の「芸術活動」を、たった96ページの冊子に、公正/的確に記録できるか。いわば「ホットなものをクールにまとめること」が本書の大命題。重要なのは、アーティストの生々しいメッセージとの「間合いの取り方」であり、それらを客観的に「俯瞰する視点」だ。事実そうした思惑は、紙面全体が厳格なグリッド(格子)によって整然と規則化されている点に見て取れる。気分のままレイアウトされたかに見えるページですら、グリッドの拡大解釈により「デザイン・ルール」は守られている。
四角四面、窮屈とさえ思えるこうした紙面設計は、とかく難解になりがちな芸術論を「見通し良く」まとめるため。また前述のマニアックな「仕様」の列挙は、デザイナーの「説明責任」を果たすためのものだろう。「公(パブリック)=鑑賞者」と「私(プライベート)=芸術家」の橋渡し。社会における「デザインの効能と役割」という今日的問題について、本書は一つの明快な答えになっていると思う。(現代企画室 2000円+税)
▽みやぎ・あずさ 工作舎アートディレクター。1964年、宮城県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。1990年代から単行本、企業パンフレット、ポスター、CDジャケットなど幅広く手掛ける。