【イスラームを知る】急速に存在感を増すイスラーム。これまでなじみ薄い日本人にも必須のイスラーム世界情報だ
「イスラーム圏で働く」桜井啓子編
日頃の習慣から価値観まで、イスラームの世界と日本とはイメージが大きく違うと思われている。しかし、実際はイスラーム世界で暮らしている日本人も少なくない。本書はさまざまな時期と立場でイスラーム世界に関わった日本人への聞き書き集だが、これが相当に面白い。
エミレーツ航空の客室乗務員だった女性によれば、機内で連絡先を聞かれてもさりげなく断るとき「イン・シャー・アッラー」(神のおぼしめしのままに)といえば角が立たない。オマーンの油田で働いた男性管理職によれば、たとえ外国人であれ人の顔のついたTシャツは偶像崇拝禁止のためNGという。クウェートに事務所を開設した商社マンは、アラブ世界での必須の心得は「あせらず、あてにせず、あきらめず」だとする。イランに駐在した別の商社マンの体験では一軒の店でなじみになりかけると値段がなぜか上がったりする。なじみ客には安くする日本とは真逆の発想で、こちらの顔色を見ながら値段を決めてゆくしたたかさに驚かされる。
“イスラーム圏就活本”としての効用もありそう。(岩波書店 780円+税)